ぼらの館

KagoshimaniaXというWebメディアやったり、雑誌の連載書いたり、テレビとかラジオに出てる鹿児島のおっさん

【妄想エッセイ】欲しいものを手にする/GHOST

             

 日本のあちこちで「夏フェス」とやらがブームになり、各地で様々なイベントが開催されていた。フェスでは参加アーティストの名前が全て乗っているTシャツ、いわゆる「フェスT」が販売されることが多い。

 

僕はフェスに行ってはフェスTを買い求め、普段着や寝間着に活用していた。銭湯上がりに、コンビニが良いにそのTシャツを着て悦に入る。行っていないフェスのTシャツまで買い漁るようになっていた。

 

フェス情報が出てきていたとある春、僕はフェスT好きが高じすぎて「スタッフ用のフェスTが欲しい」と思うようになっていた。ネットオークションで探せばよかったのだろうが、どうしてもフェスにバイトとして参加し、あの一般人が着れない色のTシャツが欲しくなったのだ。早速バイト情報を集めて、働かせてくれそうなフェスを見つけた。前の年に行ったあのフェスだ。

 

いよいよ当日を迎え、朝6時に指定された集合場所へ足を運んだ。バスで揺られること数時間、会場に到着すると大きなステージがそびえ立っていた。まずは2日間働く上での注意事項を伝えられ、2枚のTシャツが配布された。

 

シャツを手にした喜びを噛みしめる間もなく配置に付き、押し寄せるオーディエンスの対応がはじまった。ほしかったTシャツを着てフェスのスタッフとして働くのは悪い気分ではなかった。

 

1日目の途中、少し強い雨が降り始めた。交代の時間がやってきたので急いでスタッフ用のテントに戻る。そこからは、ステージ裏を覗き見ることができた。知っているアーティストたちの本番前の表情を見ながら、変な味のする漬物が入ったおにぎりを食べていた。ステージ上に仮面をつけて登場するバンドが仮面をつけている、なにか見てはいけないものを見たような気分になった。食事を終えたバイトたちは、次々にタバコに火をつけていた。

 

フェスは初日を終え、僕たちバイトは宿舎であるとある廃校に連れて行かれた。今となってはどこかさっぱりわからない。本当に「とある」廃校であった。教室の中には2段ベッドが配置されていた。100人以上のバイトがいたらしく、浴場の湯船の水は真っ黒になっていた。少々雨にも打たれたので、身体を温めるためだけに湯に浸かり、早々にシャワーを浴びた。食事も大したものは出てこず、満たされなかったお腹をさすりながら眠りについた。 

 

翌日はさらに雨脚が強まり、会場はヒートアップしていた。休憩用テントも濡れたバイトたちでごったがえしていた。2日目ともなると、タバコが切れた人も出てきていた。僕は数箱のハイライトを持ってきていたので、タバコがなくて苛立っている集団に一箱恵んでやった。「お兄さんありがとう、ありがとう」とハイライトに火をつけた男たちは、もしかしたら未成年だったんじゃないだろうか。

 

なんとかイベントを終え、ステージの解体が始まった。最後の仕事だ。普段は足場屋でもやっているであろう職人たちがクレーンなどを使ってステージをバラすのを手伝った。「おい、そこのバイト君!これ持って!」僕らには名前が許されなかった、番号が付けられる囚人以下の存在。それはそうだ、あと数時間だけの付き合い、顔も名前も必要ない。

 

大勢の聴衆を楽しませたアーティストが歌ったステージはみるみるうちになくなった。寂しがる間もなく、僕らは昨日集まった場所へバスで戻った。バスから降りるとき、バイト代の入った茶封筒が配られた。封筒を配っていたスタッフさんとはこの2日でちょっと仲良くなっていて、フェスTが欲しくてこのバイトに参加したことなどを話していた。

 

「Tシャツ1枚あげるから持って帰りなよ」そう言ってくれて、新品のシャツを1枚手渡してくれた。昨日もらった2枚は雨と汗でぐしょぐしょになっていたので嬉しかった。解散する直前、タバコをあげた集団にであったが、彼らは僕に目もくれずに街の中へ消えていった。

 

GHOST/BEAT CRUSADERS  アルバムEPopMAKING ~Popとの遭遇~に収録(2007年)