ぼらの館

KagoshimaniaXというWebメディアやったり、雑誌の連載書いたり、テレビとかラジオに出てる鹿児島のおっさん

【妄想エッセイ】幻覚は存在する/FANTASTIC WORLD

            

久々にツタヤでCDを買った。陳列がすばらしい、センスのある店だった。

確か、人気のAV女優がゲストにお説教をするような番組のエンディングテーマ。

エンディングでPVが流れてたんじゃないかな、宇宙服やナチスの更新が出てきて不思議な映像、今でもたまに見ている。

CDの売上が落ち始めてきた時代、いつぶりだろうというくらい久々に買った。

 

リーマンショックとやらが世間を賑わせていたころだと思う。

僕は、日課ハローワーク通いを終え、仕事に向かっていた。

この時やっていた仕事から完全に心が離れていた。

これから幾度となく転職を重ねる人生になるわけだけど、その仕事から心が離れると一気に物事が進んでいく、これは何度仕事を変えても同じだった。

しかし、いくら探しても、沈みつつある世の中に僕の居場所はなかった。

 

午前中は街の中で仕事をして、昼から高速に乗って地方へ走る仕事。

ほぼ休憩なし。

わずかながらの休息、サービスエリアに車を止めて、久々に買ったCDを泣きながら聞いていた。

もっと視点を変幻自在に、変えりゃ見えてくる年々次第に。

そう気づけるまでこれから10年近くかかる。

進歩したいと、ただ前を見ることしかできない僕には視野を変えるという発想はなかった。

 

眠い目をこすりながらただただ真っ直ぐ続く高速を走り始めた。

そしてついに、目の前の大型トラックに突っ込みかけた。

急ブレーキを踏んで停車して我に返ると、トラックはなかった。

「これは続かないな」

眼の前のことから離れた心に新しいものを入れる決心がついた。

 

仕事を終えると、帰りは国道をただただ走る。

どこまでも走るために、愛車に手を入れようとしたら、一緒に住んでた人に

「お前が無事に帰ってくるのを待っている人がいるんだがな?」

と反対され、諦めた。

 

今思えばそれはとても素晴らしいことなんだけど、それにも気づけなかった。

遅い遅い夕食を終え、タバコを吸い終えると、同居人の胸元に手を伸ばす。

すると、思い切り僕の手を払い、機嫌悪そうに向こうをむいて、眠りについたようだった。それを見た僕も、疲れ果てて「こっちも、もう長くはないな」と思いながら目を閉じた。

 

ハローワークに顔を出す生活を続けているうちに、いつの間にか退職の手続きを始めていた。家に帰り同居人にそれを伝えると「そっか」とだけ言い、いつものように食事が出てきた。

 

いよいよ退職が迫りつつあったが、毎晩変わらず遅い遅い時間に夕食が出てきた。

ふと気づくと、家から少しづつ、彼女のものがなくなっていた、が、僕は彼女の決心に気づいていなかった。

 

退職後、とりあえず食いつなぐためのバイトも決まったところで、同居人から「話があるんだけど」と切り出された。

 

僕はこれからどうなるんだろう。初めて家族以外の人と暮らした、幻想のような日々が終わった。

 

2009年春、僕の人生は迷走し始めた。

 

FANTASTIC WORLD/KEN THE 390 NEW ORDERに収録(2010年)