ぼらの館

KagoshimaniaXというWebメディアやったり、雑誌の連載書いたり、テレビとかラジオに出てる鹿児島のおっさん

【妄想エッセイ】まだ引き返せる夏の夜/よる☆かぜ

           

大学2年の夏。

後輩が「彼女に振られた、慰めてくれ」と連絡をよこしてきた。

敬語ができない後輩だ。態度がデカいわけではなくて、ただシャイな男。

免許取り立て、初心者マークを貼った友達のMAZDAデミオで出動した。

スコッティ・ピッペンがCMに出ていた型のデミオだ。

 

社内にはケツメイシが流れていた。

 

とりあえず高速乗ろう、無限大の彼方まで走ろう。

そう決めた僕らはインターのゲートをくぐった。

ETCなる機械を搭載したデミオがゲートをするりと通過した。

すると、目の前の道が二手に分かれている。

東に行くか、西に行くか。

まぁ西でしょ。

 

どこで降りるか、全く決まっていない。

とりあえず西に向かった。

 

「時速60キロで窓から手を出すとDカップ、そこから10キロごとに1カップずつ」

後輩はそうつぶやくと、突然車の窓をあけ、夜の風に手を晒した。

「お前が揉むはずだったのは何カップだった?」

そう尋ねると、後輩は黙りこくった。誰もそれ以上は追求しなかった。

 

まぁ大学1年だし、まだまだこれからこれから。

そうやって慰めた。僕だってまだ大学に上がってそんないいことはなかった。

 

今度合コンをしよう。とりあえずバイトしろ。と先輩風を吹かせた。

「怖くてバイトできない」

どこまでシャイボーイなんだ。

 

左手に巨大なプールが見えてきた。

同乗していた仲間の一人が「今度プールでも行ってオンナノコつかまえましょ!」と提案したが、実はこの年、そのプールで死亡事故が起きて閉鎖されていた。

 

結構な距離を走ってきたが、どこまで行くのだろうか。

行こうと思えば先は果てしない。

 

このままどこまでも行こうぜ!そうだ俺の実家に行って美味いもの、とり天でも食べようぜ!

 

と大分出身の運転手が叫んだ瞬間、後輩の携帯が鳴った。

携帯の画面を見た瞬間「今すぐ引き返して欲しい」といい出した。

 

おいおい、これからあと4時間は車に乗って、明日の朝一番でとり天を食べるんだぞ。

 

「いいから戻ってくれ」

 

僕らはどことも知れない山奥のインターで下道に降りた。

「仲直りしたい、もう一回話しをしよう」みたいなメールがきたようだ。

引き換えすから、一緒にここまで来た僕らになにかおごれとコンビニに立ち寄った。

 

まだ8月なのに、コンビニにはおでんが並んでいた。

僕は「ここに入ってるやつ全部1個づつ、いや2個づつだ」と店員に告げた。

後輩は一瞬「ちょ」という顔を見せたが、黙って支払いを済ませた。

 

お前がこれから揉むおっぱいはどのサイズだろうなぁ!と皮肉たっぷりに全員車の窓を明けて風を受け始めた。車が一気に加速しはじめ、僕らは手を引っ込めておでんを頬張りはじめた。

 

初めて食べた夏のおでんも悪くなかった。

 

後輩の家の前に人影があった。後輩は「サンキュ」と言い残して車を降りた。

 

翌日、みんなで近所のファミレスに後輩を呼びつけ「結局昨日は何キロだったの?」と聞いた。

後輩は、ニヤリと笑ってマルボロメンソールを箱から一本出して火をつけた。

 

2006年夏、今宵も夜の風を感じに、みんなで走り始めた。

 

よる☆かぜ/ケツメイシ ケツノポリス2に収録(2002年)