ぼらの館

KagoshimaniaXというWebメディアやったり、雑誌の連載書いたり、テレビとかラジオに出てる鹿児島のおっさん

【妄想エッセイ】高校3年生の夏/Talk to me

                                  

高校3年の夏。18歳の夏といえば、仲間と熱い日々を過ごし、恋人のひとりでもできて・・・なんていう感じに過ごすものだとマンガや小説で見ていたが、そんなことはなく鬱々と時間だけが過ぎていた。

 

同い年の高校球児たちが世間に感動を振りまいている姿を眺め、「ああ、僕はこの先どうなるんだろう」と一抹の不安を覚えながら、毎日学校の補習に通う。

みんなが進路を決めようとしていたころ、僕も大学の一覧とにらめっこしながら将来を考えるフリに精を出していた。冷房の効いた教室で、うつらうつらと現実と夢の世界を行き来しつつ、チャイムが鳴ったら現実の世界に戻る。

友達としょうもないことを語り合ってはゲラゲラ笑い、学校が終わると、ゲームセンターで付き合っている先輩とプリクラ機に消えていくクラスのアイドルを眺めながら、必死にテリー・ボガードを戦わせていた。

戦いを終え、家に帰ってゲームやインターネットに興じ、ソニーのMD/CDコンポに入っているRIP SLYMEを聞く。Talk to meという曲に登場するバカボンのママの優しい声を聴きながらまどろみの世界へ、いつの間にか眠りにつき、いつの間にか朝がやってきて、また学校へ。 着実に夏は過ぎ去りつつあったが、毎日毎日をごく普通に過ごしていた。

 

いつものようにバカボンのママの声を聴きながら眠りにつこうとしていたある日、友達からメールがきた。

 

「ねぇ、ちょっとお酒でも飲もう」

 

時計は日を回ろうとしている。

補習もない学校に行ってるやつはいいなぁ・・・と思ったものの、ちょっと刺激を求めていた僕は、彼女の家に向かった。とある事情で、彼女は実家で一人暮らしをしていた。僕も同じく、家に家族がいなかった。

 

到着するとすでにいつもとは違う様子の彼女。酒といえばビールと焼酎くらいしかしらなかった僕に見たことのない瓶を「飲みなさいよ」と差し出してきた。瓶に入った謎の液体を口に入れると、喉が焼けた。

何だったかは覚えていないが、とにかく強い酒だったようだ。それを見た彼女は笑いながら、氷の入ったコップを差し出してきた。それに例の液体を注ぎ、口にしてみると、今度はなんとか飲めた。

わけも分からずグラスを空にした瞬間、彼女は「こうすればもっと酔えるよ」と僕の頭を掴んで振り回してきた。慣れない酔いの感覚が増す。

ムッとした僕は彼女の頭を振り回した。それを繰り返しているうちに、僕の唇に彼女の唇が触れた。酒を飲み、唇を合わせるというわけのわからない時間をすごすうちに、明日はまた補習があることを思い出した。

我に返った僕は「そろそろ帰る」と家を出ようとした。すると、「私が送っていってあげる」と靴を履き始める。

一緒に歩いていると、彼女は別の友達の家の前でまた唇を寄せてきた。「あの子、あんたのこと好きなのよ」といいながら。

 

家に帰り着くと、「もうちょっとだけ飲もうよ」と有無を言わさず家に上がり込んできた。冷蔵庫の中に入っていたビールを飲んでいると、彼女はズボンの下に手を伸ばしてきた。無我夢中でどんなことをしたかほぼ覚えていない。ただ、僕がわけもわからず四苦八苦しているところ、あいつは僕ではない男の名前を呼んでいた。

 

それからどれだけ時間が経ったのか、いつの間にか眠りについていた僕の肩を揺らし「あれ、最後までしちゃった?わたし、そろそろ帰るね」と家を出ていった。僕はまた、RIP SLYMEをかけて眠りについた。

 

朝起きると、頭が少しボーッとしたまま学校へ、昨日家の前を通ったあいつが「なんか今日変だね」と話しかけてきた。いつものように1日を過ごし、バカボンのママの声を聴きながら夜を明かそうと過ごしていたら、また彼女からメールがきた。

 

「今日もうちにおいでよ」

 

2002年8月、もうすぐ夏も終わろうとしていた。

 

Talk to me/RIP SLYME アルバムFIVEに収録(2001年)